次に意識がはっきりした時には、もう朝だった。
僕は、あれからどうやって家に帰ったかは覚えてない。
なんだか、底知れぬ絶望感に襲われていたのだけははっきりと覚えている。
まあでも、そんなことを考えてもしょうがない。
あるいは、僕の望んでいたかもしれない非日常がそこには待ってるのだから。
なんてかっこつけてみながら、携帯で時間を確認する。
7時30分。家を出る時間まではあと50分ほどある。
そして驚くべきことに、新着メールが2通着ていた。
差出人は、金斗と北川さんだった。
とりあえず金斗の方から開いてみる。
『明日の朝、大事な話がある。
8時に、私たちの出会った屋上へ』
なんかすごいロマンティックなメールだった。
しかも、特に昨日の怒りへのフォローが無いのが凄い。
どうせまた、魔王がどうのこうのだろうか。
金斗のお供である以上、北川のメールも期待せずに開いてみる。
『拝啓、前世では貴殿の侍女だった北川と申します。
突然ですが、僕から大事な話があります。
今日の7時50分に、南石公園へと来てもらえませんでしょうか』
・・・うわあ。
どうすればいいいいいいんだこれは。
焦りすぎていだらけになってしまったぐらいどうしよう。
ていうか何を言ってるんだ僕は。
なんだこの超従順キャラは。こんなの現実に居るわけ無いだろう常識的に考えて。
やはり、金斗との出会いによって僕は非日常へ巻き込まれたのかもしれない。
どうしよう、これはもう取り返しがつかない気が・・・。
ええい。考えたって埒が明かない。
こうなったら、最終回まで突き進むのみだ。鬼でも魔王でも何でも来い。
とかなんとか適当に考えつつ。
僕は、北川さんへ会うために学校へ行く支度をした。
南石公園は、僕の家と学校のちょうど真ん中あたりにある。
いつもは、学校帰りの子供たちでいっぱいになっているのだが。
今は、一人しかいなかった。
いかにも、な感じの大人しめ少女。
北川さんは、僕がそこへ着くころにはすでにそこに居た。
「いったい、僕に何の話ですか?」
僕は、主人公らしくさっさと話を進めるために、
挨拶もそこそこに単刀直入に聞いてみた。
「僕を、貰ってください」
単刀直入返しで、彼女はあまりにも現実離れしたことを言った。
僕は、唖然となった。
北川さんと僕との間に、気まずい沈黙が流れる。
この場合はどう返せばいいのだろうか。
もっと、ライトノベルや恋愛小説を読んで勉強しておくべきだった。
僕が返事に詰まっていると、北川さんは困ったように話し始めた。
「えっとぉ・・・もしかして似合ってないですか?
金斗さんに『あいつは僕っ子で攻めればいけるはずよ』と言われたんで・・・。
とりあえず言ってみたのですけど・・・」
「ありがとうございました!」
とりあえず土下座する僕。
すいません、滅茶苦茶かわいいのですがこの人。
彼女は、そんな僕を見ながらこう言った。
「あ、その土下座はもしかしてOKの合図ですか?よかった。
もし断られたら、金斗さんに何されるか・・・」
そこまで言って、彼女ははっと口を閉じた。
「ちょっと、それはどういう事だ?」
金斗に何かされる?いったいどういうことなんだ?
彼女は、僕の凄む姿を見て怯えるように話す。
「だってぇ・・・金斗さんが。
どうしても黒田さんが欲しいから手伝え、というので・・。
口調とか、台詞とかがんばって考えたんです・・・!
お願いですから、私を見放さないでください・・・。
あの人に逆らうと、何されるかわからないんです!」
彼女の表情には、さっきのようなわざとらしい表情ではなく、
本当に困っている時のそれだった。
困っている人を見捨てるわけにはいかない。
それが僕に関係しているとなればなおさらだ。
「わかった」
彼女の必死な表情を見て、僕はそう言った。
僕のどうでもいい学校生活で、北川さんが救えるなら、
別にたいしたことは無い犠牲だと思った。
「とりあえず、今は仲良くしよう。
そして、いつか金斗の奴を叩き直そう」
僕はそういうと右手を差し出した。
握手のつもりだったのだが、彼女はその手を両手で握った。
そして、僕の目を見つめてこう言った。
「はい、喜んで着いていきます」
こんな短い間に女の子に手を握られたり、喫茶店に行ったり、告白されたり。
傍から見れば僕は結構幸せなのかもしれないな。
そんな場違いな思いを秘めながら、僕は北川さんと共に学校へと歩き出した。