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次の日、僕は事前に待ち合わせをすることになっていた
喫茶店「天国」の一席でコーヒーを飲んでいた。
何故こうなったかと言えば、金斗とメールで「魔王とは何のことか」
「将来のこととは何だ」「そもそも何で俺が狙われる」と聞いたのだが。
「このメールの内容は向こうにもばれている。
明日はちょうど休日だから実際にあって話したい」
という趣旨のメール(実際には細かい設定の羅列でもっと長かった)が着たので、
ああこれが噂のデートかあれなんか違う気がするとか思いながら就寝。
起きてから、よくわからない期待とともに家を出ていまここ、である。
それから、10分ほどコーヒーで粘っていると、お供を3人連れた金斗がやってきた。
僕のあるいはデートかもしれないという幻想は見事に砕かれた。
金斗はさっそうと僕の向かい側の席にお供と共に座った。
そして、まるでペットかなにかを紹介するかの様にこう言った。
「紹介するわ、私のしもべたちよ」
それに合わせて、ちょこんと頭を下げる3人のしもべさん達。
見たところ、その内二人は金斗の様にどこにでもいそうな女子。
もう一人は、クラスに一人はいるようなおとなしそうな、眼鏡を掛けた女子だった。
「こっちが牧野世那(まきの せな)、そしてこっちが市山七海(いちやま ななみ)。
そして、このおとなしいのが北川悠美(きたがわ ゆみ)」
普通女子二人が次々と紹介され、最後に眼鏡っ子が紹介された。
「さて、本題に入るわ」
僕の返事の有無は聞かずに本題に入る金斗さん。
「あなたには今、魔王の魔の手が伸びようとしているわ」
始まりました、お得意の電波ワールド。
僕は、とりあえずこのノリに着いていくことにしたのだった。
あるいは、目を覚ましてくれれば僕には普通の彼女ができる。
そうでなくても、中身が普通じゃない彼女ができるだけだ。
それは、それでいい。少なくとも今は。
「で、その魔王はなんで俺を狙ってるんだ?」
興味と試す意味も込めて、聞いてみる。
「あなたが、世界を平和にすることも、
地獄にすることもできる魔力を秘めている存在だからよ」
それと共に牧野さんと市山さんがこくこくとうなずく。
まるで新興宗教か・・・もしくはフィクションのような話だった。
「それはどういうことなんだ?せめて日本語で説明してくれ」
僕がそういうと、金斗はここから大体20行ほどに渡るような、
手に汗握る全米が泣いた壮大な冒険ファンタジーを語り始めた。
正直言って頭がおかしくなって死にそうだったが、
がんばって要約するとこうなる。
僕はエレン(この世界のひとつ上の世界)のお姫様で、
金斗はそのお婿、つまり王子様だった。
ある日、地獄に住んでいた魔王の軍がエレンを攻めて、
その敗北の代償として俺が連れ去られたらしい。
そして、見世物にされるぐらいなら・・・と最後の力を振り絞り、
禁断とされていた魔術(なんか世界が終わる)を使った。
そして、その罪によって僕は人間界へと落とされた。
それを追って、金斗がこの世界へと生まれ変わった。
だが、魔王が僕が転生したことに気づいて、僕をまた捕まえようとしている。
ちなみに、この30分ほどの説明の間、
牧野市山ペアは微動だにしていなかった。やはり何かの宗教なのかもしれない。
「どう?わかった?」
「うん、とてもよくわかった」
俺の中二病フィルター万歳。鍛えておいてよかったぜ。
「というわけで、あなたは明日から私が管理します」
「ああ、そういうことで・・・」
あれ?なんか、明日からあなた部長ですよ的なノリですごいことは言われた気がする。
「は、管理?どういうことか説明しろよ!」
僕は、思わず声を荒らげる。
彼女は、僕のそんな態度を意に介せず言った。
「当たり前でしょう、魔王につかまったらどうするの」
「それは・・・どうなんだ」
むしろどうやって捕まえるんだ。
いきなり維持減とかに落とされたら流石に回避できない気がする。
とか反論しようとした次の瞬間、
「どうだっていいの!あなたは私がいればいいんだから!
というわけで、月曜日からちゃんと学校に来る事!いいわね!?」
何の前触れもなく鬼のような形相で僕にまくし立てる金斗。
特におかしなことを言ったつもりはないのに、何故だ?
絶えかねて、他の3人に目配せで助けを求めるが、
牧野市川ペアは相変わらずの無表情で、北川さんは少し震えながら俯いていた。
彼女はそのまま勢いよく店を出て行き、お供3人と僕だけが残った。
金斗の怒号だけでも十分ノイローゼになりうる内容だったのだが、
急に発せられた牧野の一言が、僕にとどめをさした。
「せいぜい仲良くしましょうね、どっちかが死ぬまで」
多分他の二人は、魔王か僕かと思ったに違いない。
だけど僕は、金斗と僕どっちか、という意味にしか受け取れなかった。
呆気にとられる僕を置いて、3人は連れ立って帰っていった。


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