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僕は今、幸せの絶頂にいる。
16年間生きてきて本当によかった、と思える日が
これからの人生の中であるだろうか、というぐらいである。
もう少し具体的に言うならば、
今すぐ服を脱ぎ捨てて走り出してもいいぐらいである。
そのぐらい幸せなのだ。
これ以上僕がいかに幸せかについて語ると、
勢いあまって隠された性癖まで言ってしまいそうなので、
この辺にして具体的な内容に入ろう。
そう、あれはちょうど30分ほど前、
帰りのホームルームが終わり、いつものように一人で帰ろうと、
自分の下駄箱を覗いた時のことであった。
僕の登校用の靴の上に小さな可愛らしい折りたたまれた便箋が入っていた。
そう、この時点で男子の皆様はアレを思い浮かべるはずである。
女子が男子に想いを伝えるために書く手紙。
世間一般的に言われるところのラブレターという奴だ。
まあしかし、流石に16年間女子との関わりがないどころか、
むしろ蔑まれてきた身としては、ただの嫌がらせの手紙という
可能性も全く捨てきれないのだった。
そんなこんなの思いを持ちながら、僕は恐る恐る二つ折りの便箋を開いた。
その内容を読んだ瞬間、僕はこう思った。いや確信した。
僕は今、幸せの絶頂にいる、と。

黒田 広人様へ
あなたと今日すれ違った時、運命の人と確信しました。
私たちの将来について、大事な話があります。
5時に屋上で会いましょう。
金斗 利院

うん、これはどう見てもラブレターだ。
しかも一目見たときから運命の人とかもうね、もうね。
ていうか黒田広人様だぜ、様。
こちとらずっと「お前」とか「そこのブサイク」とかだったからね。
うん、なんというか感動ですよ、感動。
しかも、将来ですってよ将来。
なんだこの人、いろんな意味で吹っ切れてますね。
とかそんなことを思いつつ、まだ約束の時間まで30分もあるのに、
僕は学校の屋上へとダッシュしていたのだった。
そして、色んな妄想(ここではいろんな意味で言えない)をしつつ、
金網に寄りかかって学校のグラウンドをぼんやりと眺めて過ごしていた。
すると、突然後ろから声をかけられた。
「あの、広人さんですよね?」
「え、あ、あ、はいそうです」
あまり女性慣れしてない僕は、
妄想の途中であったこともあいまってかなり挙動不審な状態で返事をした。
金斗の第一印象は、どこにでもいる普通の女の子といった感じだった。
クラスの上のほうでも下のほうでもないグループの一人と言ったところか。
「金斗さん、でしたっけ。僕に何の用ですか?」
挙動不審を取り繕うために、少しクールっぽく聞いてみる。
「そうですね・・・少し説明しづらいのですけど」
困ったように首を傾げながら、金斗は続けた。
「あなたは今、魔王と呼ばれる存在に狙われてるのですよ」
僕は、絶句した。
大事なのでもう一度言う。
僕は、絶句した。
そう、ここまではよくあるラブコメだったはずではないか、
それが、どうして学園異能物かそれに類するファンタジーなことになるのか。
僕が二の句を継げずにいると、それを肯定と受け取ったのか、
金斗はさらにこう切り出した。
「だから、私たちは一緒にいるべきだと思うのですよ、あなたのためにも」
彼女は堂々と僕に向かってそう告げた。
僕にメルアドを渡して部活があると言って帰っていった。
僕は、多少期待はずれな気持ちもあったが。
女子と付き合えるならまあ理由はどうでもいいんじゃないか、とそんな思いが湧き上がってきた。
たとえ魔王がどうのこうのだろうと別にいいじゃないか、と。
だから、僕は彼女の要求を受け入れることにしたのだった。


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